企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

自分のためになることは、多くの人のためになる

“私はいつも、会社のためにばかり働くな、自分はこうなりたいという希望に燃えて入ってきたんだろう。自分のために働くことが絶対条件だ”というホンダ創業者の本田宗一郎さんの言葉は言い得ています。あなたは本当に自分のためになることに、真剣に取り組んでいますか。

私のためと、自分のためでは、180度意味が違う

 1969(昭和44)年4月に、本田宗一郎さんは社員たちを鼓舞しています。冒頭の分は『本田宗一郎 夢を力に 私の履歴書』に出ている言葉です。安易に受け取るのではなく、真の主張は何かを考えて読んでください。社長も、幹部も、現場の皆さんも、自分たちのために
働くことが大事なのです。身勝手では自分のためではありません。なぜ、自分勝手な働き方をしているのか。なぜ、そういう習癖が身に付いたのか。身勝手な仕事ぶりは、自分の人生を台無しにしてしまうのです。
 生き方も同じです。自由で奔放で愉快な生き方が本田宗一郎さんのイメージですが、真実は劣等感に悩んだり、夜も眠れぬくら苦しみ、未熟さに気づいて必死に学び、楽な道と苦しい道との分岐点では、いつもどんなときも、自分のためになるほうを選んで生きられました。楽な道より苦しい道を選ばれたのです。
 私のためと、自分のためでは、180度意味が違います。「私」という文字は社長力で述べたように食べ物を一方的に奪う意味を持ちます。それに比較して「自分」とは、天に与えられた天分や才能に素直に従う、という意味です。自分の「自」は「自う」、「分」は天分という意味だからです。
 つまり、天分の発揮は私のためだけにあるのではなく、お客様、上司、職場の仲間、会社、社会、国家、未来の子どもたちのためにあるからです。
 私を含めて現代人は、豊かさの上に当然のように生きています。一見、幸福に見えるでしょうが、落とし穴があることを知るべきです。身勝手を自由と言い、わがままを権力と考え、自己中心を当然とした風潮があります。身勝手やわがままや自己中心こそが不幸をつくり、一時的には幸福に見えた人たちの終幕は、極めて気の毒なものです。

自分のために働くことが会社にもプラスとなる

 個人と組織は永遠の課題です。封建社会にあっては、個人は組織へ一方的に奉仕する考えが濃厚でした。企業は誰のものかという問いに、日本は働く人々のものであると考え、企業は株主のためにあると考える欧米諸国とは一線を画していましたが、大手企業は株価大家もあり、株主資本主義というべき欧米諸国に近づいています。
 個人的見解ですが、多額の配当金を出すのであれば、協力会社への厳しいコストダウンを強いる前に、もう少し緩和策をとるべきだと思います。中小企業の生涯賃金が低いのは、一つはコストダウンにより低粗利益率と、現場の生涯効率の問題があるからです。
 そういう中で、本田宗一郎さんは、自分のために一生懸命働くことが同時に会社にプラスになるのだと、「週休二日制」をいち早く打ち出した松下幸之助翁と同様、人間尊重が根底にあったと思います。
 「私はいつも、会社のためにばかり働くな、ということを言っている。君達も、おそらく会社のために働いてやろう、などといった、殊勝な心がけで入社したのではないだろう。自分はこうなりたいという希望に燃えて入ってきたんだろうと思う。自分のために働くことが絶対条件だ。一生懸命に働いていることが、同時に会社にプラスとなり、会社をよくする。会社だけよくなって、自分が犠牲になるなんて、そんな昔の軍隊のようなことを私は要求していない。自分のために働くということ、これは自分の忠実である。利己主義だと思うかもしれないけど、そうではない。人間は人にもよく言われなければ自分が楽しくないという相対的な原理を持っている。(中略)我々はただ単に、自分だけよければいいと言うのではない。自分をよくするためには、人までよくしてやらなければ、自分というものがよくならないのだ、という原則があることを考えて自分をよくしなさいということを申し上げる」(『本田宗一郎 夢を力に 私の履歴書』より)

本記事は、月刊『理念と経営』2019年10月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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