企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

理念を軸にした社風改革が IT化の素地をつくった

ワンチームになれない現場は敗れ去ります。企業の収益は、ロワーマネジメントの育成と現場力の強化にどれだけ問題意識が持てるかで決まります。情報は現場にあります。顧客の声も、現場の問題意識から聞こえてくるのです。

一つの気づきは素直な話し合いから生まれる

 ドラッカー博士は著書『経営者の条件』で、トップマネジメントの役割について述べています。経営コンサルタントもされていましたから現場を大切にされ、目標管理に関しても自主性を重んじていました。自主管理とは放任主義ではなく、現場の自主性を引き出し、達成体験を支援するリーダーシップと考えていたのです。

 「知識労働者が成果を上げている組織では、トップマネジメントが定期的に時間を割き、時には新入社員に対してまで、『あなたの仕事について、私は何を知らなければならないか』『われわれ(トップマネジメント)が手をつけていない機会はどこにあるのか』『気づいていない危険はどこにあるか』『この組織について私に聞きたいことは何か』と、じっくり聞こうとしている」
 
 エースカーゴ㈱のIT化の成功は、トップマネジメントが足立貴裕事業部長を抜擢し、彼自身も自分ごとにしたことです。物流の大手企業でドライバーをしていた足立部長ですが、当時、「わからないことを上司に聞いても明確な基準で教えてくれる方がいませんでした」と述べています。
 
 それだけではありません。単刀直入に改善策を打ち出すのも彼でした。本音で経営革新の観点から発言する足立部長に、ある日、中嶋辰也会長と山中泰宏社長が声をかけ、意見を素直に聞いてくれたのです。ドライバーと現場職を半々に任せていたのは、嘘偽りのない足立部長の人間力があったからです。足立部長は「僕みたいに本音を言う者が現場にいたのではやりにくかっただろうなと思います」と当時を振り返ります。

 話が進むうちに「欲である給与だけでは限界がある。それよりみんなと一緒に社風や福利厚生を良くしよう」と、考え方を発展的に展開したのです。一つの気づきは素直な話し合いから生じたのです。


現場の改革に自ら乗り出した

 ワンチームになった頃から社風改革の突破口が開けたようです。足立部長は自ら勉強会、理念の理解、「13の德目」を使った朝礼などを企画し、現場に落としていきます。しかし、現場がすぐに変化するわけではありません。「勉強したくない」「早く帰りたい」「残業代はいくら出るんですか」……、さまざまな声が出ましたが、すべて真剣に聴きました。

 足立部長は「僕はどれも否定しませんでした」と当時を振り返ります。「そりゃそうだよな。わかる」。うなずきながら折れないのが足立部長の人間力です。一時間でも話し合います。足立部長は言います。「目的を明確に説明しました。伝えるときは熱量を最大化しました。腑に落ちない人には個別に話し合いました。『何のための命なんだろう』と、相手を見て素直に自分の意見を述べました」。みんなに通じたのは、足立部長が本音を伝えたからです。中小企業は目的の明確化と、それを伝えるコミュニケーションが第一なのです。

 もちろん、紆余曲折が多くあります。社風の改善は並大抵ではできません。成功要因は足立部長が自らを捨てて、誠実に現場の仲間の声を聴いたからです。

 初めに行ったのが「情報の共有」です。「13の德目」は導入時荒れたようです。「ああいうのは生理的に無理です!」「昨日のありがとう? それ何なんですか。思ったときに言うもんじゃないの!」……。足立部長自身も、以前は本音で疑問に思うことは言っていましたから、それらをすべて受け止めました。

 次に行ったのは「幹部の理念解説」です。「幹部が理念を軸にしていなかったので、良い悪いよりも好きか嫌いかで判断していたからです。会長、社長、部長、所長と、足立さんは毎月順番にアウトプットさせ、理念の実践が日常で意識されるようにしたのです。「そのほか意識したコミュニケーション」「PDCAを回すマネジメント」など、それを足立部長は一人ひとりにコメントを書いて返しているのです。

本記事は、月刊『理念と経営』2023年8月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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