企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

安青錦関の生き方に学べ

健気に生きて社長は務まるのか? そんな疑問を持つ人もいるかもしれません。それくらい、社長には逞しさや熱意が必要です。一方でひたむきに何かを成そうと努力し続ける姿や態度にも健気さが潜んでいます。

ウクライナから来日し健気に活躍する安青錦

 『サンケイスポーツ』の「甘口辛口」欄に、一一勝を挙げて千秋楽まで優勝争いに残った安青錦関(21歳)に関する記事が掲載されていました。
 今年三月、俳優の吉永小百合さんがライフワークとしている平和を願う詩を朗読した時、ウクライナ人の男性バイオリニストも母国から参加していたそうです。吉永さんは本誌で連載いただいている窪島誠一郎先生の戦没画学生慰霊美術館「無言館」の活動を応援されています。

 折しも、春場所が開催中であったことから、記者はウクライナ出身の安青錦関と獅司関(28歳)の活躍について感想を求めたそうです。すると、吉永さんは「必死で相撲を取っている二人とも応援しています」と笑顔で語られたそうです。
 二人はすさまじい戦禍のウクライナを離れ、稽古の上に稽古を重ね、自国を守るべく、相撲を通して闘っています。安青錦関は、夏場所は千秋楽で惜しくも破れましたが、その非凡な才能と将来性の高さから、次世代の横綱・大関候補の一人として大きな注目を集めています。

 安青錦関の夢は「母国に平和が戻った際、復興支援の仮設住宅を建てること」だそうです。おそらく横綱になることも強く決意しているはずですが、やはり、健気に生きる人間は、大切な父母のいる母国の平和を願うのです。
 ロシアに一方的に侵略されて、同じ年齢の多くの青年兵士が戦地に赴く中、母国への思いを抱きながら、厳しい稽古に耐え抜き、優勝に手が届くところまで鍛え上げているのです。

社長力とは耐え難き時を乗り越える力

 社長とは一体どういうポジションでしょうか。オンライン講座「企業事例に学ぶ社長と幹部の実践学校」をコーディネートする立場から、五十数名の社長と二度の打ち合わせを行い、オンラインでの「本番」をご一緒しました。その中で、社長たちに共通する四つの人間性が見えてきました。それは、①困難から逃げずに、②試練の時こそ心を開き、③周囲の支援を素直に受け入れる謙虚さがあり、④肯定的な解釈能力の持ち主だということです。

 スタンフォード大学の心理学者であり、全米心理学会会長も務められたアルバート・バンデューラ教授は、生きる上で一番大切な自己効力感を研究されました。
 著書では、自己効力の信念は四つの主要な過程、すなわち、認知的過程、動機づけ過程、情緒的過程、選択の過程を経て、人間の機能を支配している、と説きます。その上で「人間の機能が規定されていくときには、これらの異なった過程が、個々に孤立してではなく、一斉に合わさって作用していく」と述べます。

 認知的過程に関して、次のようにも述べています。「人間の行動の多くは、目的をもったものであり、はっきりとした価値をもつ目標を予測することによって規定される。個人の目標設定は、能力の自己評価に影響される。自己効力感が強いほど、より高い目標を自分のために設定して挑戦し、それに対するコミットメントも確固としたものとなる」

 アルバート・バンデューラ教授の考え方をお借りすると、社長力とは「耐え難き時を乗り越える力」とも言えます。つまり、可能思考能力のことです。
 安青錦関はウクライナで七歳から相撲を始め、一五歳の時、大阪で開催された世界ジュニア相撲選手権大会で銅メダルに輝きました。おそらく、安青錦関の根底には、高い自己効力感があったのでしょう。

 そして、より高い目標を設定し、二〇二二年に始まったロシアのウクライナ侵攻の渦中に来日し、兵庫県神戸市の山中家にホームステイしながら日本語学校で学びました。関西大学相撲部で稽古を積み、元関脇安美錦関が親方を務める安治川部屋に入門しました。四股名は、親方の「安」とウクライナ国旗の色の「青」で決まったそうです。

本記事は、月刊『理念と経営』2025年10月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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