企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

仕事は立派な「人間教育」です

企業の本来の役割は、働く人の「働きがい改革」を促進し、働く人に「雇用される能力(エンプロイアビリティ)」を身につけてもらう場を提供することです。テクノロジーの進化で、消失する仕事もあり「人づくり」は急務のはずです。

日本の年間労働時間は減少している

 政府は「働き方改革」を推進してきました。しかし、経済専門家筋からは、「働き方改革に伴う急速な労働時間の減少が、賃金低迷の主因になっている」と指摘され、「実行すべきは行き過ぎた労働時間規制の緩和である」と、勇気ある声があがっています。日本の財政事情を含めて、少しほかのデータから検証してみましょう。

 二〇二三年度のOECD(経済協力開発機構)の調査に基づき国際比較をしてみると、日本の一人当たり年間労働時間は一六一一時間です。資源大国であるアメリカの一七九九時間や、韓国の一八七二時間と比較しても少ない状況です。
 民間調査機関の労務行政研究所が行った、二〇一三(平成25)年度の調査結果によると、日本の年間所定労働時間は一九〇八時間〇三分、年間休日は一一九・六日、一日当たり所定労働時間は、平均七時間四七分でした。

 仕事に対するモチベーションについても、日本は一四五カ国中最下位です(ギャラップ社調査)。
 国連などによる「世界幸福度報告書」では、各国の約一〇〇〇人に「最近の自分の生活にどれくらい満足しているか」を尋ね、ゼロ(完全に不満)から一〇(完全に満足)の一一段階で答えてもらう方式で国ごとの幸福度を測定しています。一位は八年間連続でフィンランドです。幸福度スコアは七・七三六。それに対し、日本の幸福度スコアは六・一四七と、大差がついています。日本は、二四年は五一位でしたが、二五年は五五位です。

 その上で、財務省のデータをみると、日本の政府債務の対GDP比の高さに驚きます。韓国五三・八%、ドイツ六六・一%、中国七七・一%、アメリカ一二〇%、日本は二五七・二%で世界一七八カ国中、最下位です。

「ゆるい職場」が「ゆるい若者」をつくる

 日本という国を人に例えていえば、財布に借金を抱えながら、働くことをあまり奨励しないようなものです。働き方改革で短時間労働を奨励するのではなく、多様性の時代らしく、短い時間でも余暇を楽しむ人もよしとし、元気で働く意欲の高い人財なら、個人の自由選択に委ねるべきです。稼ぎたい人や働きたい人も多くいます。
 研究や新商品の開発には時間がかかります。熱意ある人を育てて結果をつくり、国は税収を増やして債務を補う義務があります。次世代にツケを遺すべきではありません。

 そういう意味で、社長は、働く意味を理解させ、生産性向上のための対人能力や、目標に対する熱意の高い人財、貢献意欲の強い人財の活用を方針に掲げ、「働きがい改革」に舵を切るべきです。
 OECD加盟国の平均労働時間が一七四二時間に達するということを鑑みても、働くことに意欲的な人には働いてもらえばいいのです。このままいけば未来に憂いを残しかねません。とくに一番の恐れは、働くことに対する価値観の変化です。働く行為は高い社会性を持ちます。「若者がゆるくなったのではなく、職場がゆるくなった」と、『ゆるい職場』(中央公論新社)の著者、古屋星斗氏は指摘しています。

 ちなみに、アメリカの多くの企業は個人のスキルアップした分を評価し、個人は成果を中心にして前向きに実力を蓄えようとします。受け身では何事もストレスになり、疲弊感が残り、結果として病気がちになりかねません。
 古屋氏が指摘するように「ゆるい職場」が増えると、「ゆるい若者」をつくることになります。貢献欲求の高さは自己成長の強さであり、もっと自由度を与え「働きがい改革」を推進するべきです。

本記事は、月刊『理念と経営』2025年7月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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