企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

人の「やる気」を削いではいけない

「苦しい時間帯、みんなが苦しい時は、私だって苦しい。苦しいけれど、自分がそこでさらに頑張って、みんなより前を走り続ける。これがリーダーとしての、私がするべき一番大事な仕事だと思っていました」。われわれは澤穂希選手の言葉を自らに問いかけるべきです。

澤選手をテレビで学習した宮澤選手

 スタンフォード大学のアルバート・バンデューラ先生は、社会的学習理論(モデリング理論)を発展させた心理学者です。人間は自らの体験だけではなく、他者の言動を観察したり、模倣したりすることで学習することができると提唱しています。

 会社では、社長が無意識にとっている言動を、社員さんは真似ます。社長が悪いモデル(お手本)を示せば、社員さんはそのまま悪い学習をします。前向きで良いモデルならば、良い言動や考えを真似るのです。社長力とはモデルになる力です。

 昨年六月に、なでしこジャパンに選出された宮澤ひなた選手は二〇一一(平成23)年、小学五年生のとき、なでしこジャパンが優勝した光景をテレビで見て、一大会で五得点の記録を持つ澤穂希選手を未来のモデル(良いお手本)と決めたようです。

 宮澤ひなた選手は「『自分もここに立ちたいな』って強く思ったのが、夢が明確になった瞬間だったかな」と記者に語っています。昨年の七月二二日には、ザンビア戦で先制点と三点目を奪い、この大会で五得点という澤穂希選手と同じ記録をつくっています。小学校五年生で、すでにモデリングしていた結果といえます。五対〇で勝利しました。

 七月三一日には、前半一二分で先制点を決め、さらに四〇分で豪快なシュートを突き刺し、日本は世界ランク六位の強豪スペインに四対〇で大勝しています。宮澤ひなた選手の貢献です。残念ながら準々決勝でスウェーデン代表に敗れ、ベスト8敗退という結果に終わりましたが、パリ五輪には希望があります。


「やる気を高めよう」が世界のトレンド

 アメリカのギャラップ社がまとめた最新の「グローバル就業環境調査」によれば、日本人で仕事に対する熱意や貢献意欲を持つ人はわずか五%で、一四五カ国で最下位という結果でした。

 健康社会学者の河合薫氏は、著書『働かないニッポン』(日本経済新聞出版)で次のように述べています。

 「仕事には『潜在的影響』と呼ばれる、経済的利点以外のものが存在します。一日の時間配分、生活の安定、日常的な身体及び精神的活動、他人との規則的な接触、家族以外のコミュニティへの参加、自由裁量及び能力発揮の機会、他人を敬う気持ち・他人から敬意を示される機会などで、これらの潜在的影響は人の心を元気にし、人に生きる力を与えます」

 ニュース番組「報道ステーション」によれば、世界平均ではやる気がある人は二三%、やる気がない人は七七%。アメリカはやる気がある人が三三%強で、日本の五倍以上に上ります。ただ、「アメリカ人はやる気をみせないとレイオフされる」という声もあるようです。

 一〇年前は、日本と世界の差はさほどありませんでしたが、日本は年々離されています。一体何が問題なのか。経済ジャーナリスト渋谷和宏氏は同番組で次のように述べています。

 「やる気を高めよう、その結果業績を上げようというのが世界の先進的な企業、先進的な経営者のトレンドになっています。現状の働き方改革は、社員のやりがいや成長に対する配慮に欠けていると思う。本当に働きたいという人のやる気をむしろ削いでしまっている」


本記事は、月刊『理念と経営』2024年5月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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