企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

「やってみなはれ」の精神で闘おう!

「問題は宝の山だ」と定義したのは〝経営の神様〟といわれた松下幸之助翁です。サントリーの創業者は「やってみなはれ」の精神で脅威をチャンスと捉え、自らの潜在能力を顕在化させ、即断即決で挑みました。社長力とは意思決定と実践力のことです。

サントリーの「やってみなはれ」

 一〇年前、サントリーホールディングスは米ビーム社を約一六〇億㌦(約一兆六五〇〇億円)でM&A(合併・買収)しました。洋酒メーカーとしては日本一ですが、一挙に世界第三位になったと話題になりました。社運をかけた佐治信忠会長の決断です。

 サントリーには企業文化として「やってみなはれ」という、創業者の一念があります。伊集院静さんの『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎』には、修理した自転車を届ける丁稚時代の松下幸之助翁と鳥井信治郎氏の出会いのシーンがあります。

 「『坊は故郷はどこや?』『和歌山の海草だす』『そうか、紀州は昔からええ商いがでける人を出しとる土地や。坊も気張るんやで』『は、はい』『坊には見どころがある。この棚の、この葡萄酒が綺麗やと思えたことは、商いの肝心のひとつや。商いはどんなもんを売ろうと、それをお客はんが手に取ってみたい、使うてみたい、うちの店の、この葡萄酒ならいっぺん飲んでみたいと思うてくれはらなあかん。(中略)この葡萄酒が他のとこの葡萄酒より美味いと思うてもらわなあかん。いや葡萄酒だけやない。他のどんな飲み物より、うちの、この葡萄酒を飲みたい、と思うてもらわなあかんのや。そのためには品物がようでけてへんといかん。ええもん作るためなら百日、二百日かかってもええんや。ええもんのために人の何十倍も気張らんとあかんのや。そうしてでけた品物には底力があるんや。わかるか、品物も、人も底力や』」

 この会話からもわかるように、サントリーはいつも「やってみなはれ」の精神で闘って、蒸留酒市場で世界有数の座を手にして飛躍しています。


経験と体験は違う。どう違うかわかるか

 「木野君な、経験と体験とは違うで、どう違うかわかるか」。いつものように禅問答のような質問を、松下幸之助翁が松下電送元社長の木野親之先生に投げかけます。

 車の中でも、トイレの中でも、いつでもどこでも質問するのが松下幸之助翁の習慣でした。質問をして「人」に考えさせる機会をつくり、その習慣を身につけさせていたのです。質問に答えると、「違うな」という返事です。再び考えて答えると「違うな」という返事が繰り返されます。

 日々自らに問いを立て続けた松下幸之助翁ならではの習慣です。模範解答からイノベーションは起きません。外部環境は絶えず変化しています。固定化された観念に縛られていると独自性は生まれません。社長力とは自らに「問いを発する力」、そして「自らの能力に挑む力」です。「やってみなはれ精神」の欠如こそが、中小企業の最大の経営課題だと思います。自分で考えて、そのうえで実践してみてこそ、社長力・管理力・現場力の三位一体が完成するのです。

 松下幸之助翁は、「経験は誰もがしてるんや。五〇年生きたら、五〇年の経験がある。体験は違うんや。体験は体を痛めて、のたうち回ってつかむもんや」と言われたそうです。木野親之先生はこの一言に「そうか、それなりに自分は債務超過の会社を再建してきたつもりだったが、その上に胡坐をかいていたのだ」と、大きな気づきを得られたのです。

 スイスのビジネススクールIMDは昨年、二〇二三年の世界人材ランキングを発表しています。残念ながら日本は前年の二二年より順位を下げて六四カ国中、四三位となり、調査開始の二〇〇五年以来最悪でした。要因は①語学力、②上級の管理者の国際経験に対する評価の低さ、③国内総生産(GDP)比でみた教育投資の少なさが影響しているようです。




本記事は、月刊『理念と経営』2024年3月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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