企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

社長と幹部が「WHY」を ぶつけ合うことが大切

パートさんから、障害児福祉サービス業を経営することになった㈱まなぶの八木由美社長は、その高い志をクリエイティブ・ペアに支えられ、小中学校への新サービスなどの新事業で社会課題の解決に挑んでいます。

現場をワクワクさせる役割を果たそう

 社長力とは、ビジョンや経営理念や自社の目的や使命を明確に打ち出す力のことです。どんなに時代が変化しても、企業経営の根底には高い志が必要なのです。しかし、実現には共感してくれる幹部も必要です。①幹部がクリエイティブ・ペア(知的格闘を経て、新しいものを生み出す異質な相手)となって、②社長のビジョンを共同化し、③対話をしながら本質をつかみ、喩えや仮説で具体化していきながら、④あらゆる知を相互に組み合わせて理論化して、⑤最終的に体系的な知を生み出し、具体的に実践していきます。

 一橋大学の野中郁次郎名誉教授の世界的な「SECIモデル」を、組織は小さいながら実践しているのが㈱まなぶです。実践の際には幹部が部下に目的を明確に伝え、現場は実践の段階で意味を理解し、順調に業務を遂行して全員で成功させています。

 世界的な経営戦略史に残るSECIモデルを創造された野中郁次郎名誉教授は、過日の「新しい時代の社長学」講座で「WHY思考が視野を広げ、存在意義を感じ、共通善を生み出していく」と述べ、SECIモデルのエッセンスを講義していただきました。

 現場をワクワクさせることが社長と幹部の大きな役割であり、㈱まなぶは、それらを実践に近づけようと努力しているのです。あらためて社長力とは「WHY」(なぜ)を自らに問う力だと強く感じます。同じように管理力の役割は、社長のWHYと、現実の現場のWHYをつなぐ役割なのです。

大きな社会課題に挑戦するために独立

 野中郁次郎名誉教授は、社長が「新しい知」を創造するには、クリエイティブ・ペアが必要だと強調されました。クリエイティブ・ペアとは、お互いが共感し合い納得するまで本音で話し合い、一人ではできない知的創造を生み出す人のことで、相手が必要です。中小企業の成長には、三位一体でフラットに討議する知的ペアが不可欠なのであり、社長と幹部がとことん「WHY」をぶつけ合う知的コンバット(格闘)が求められます。

 ㈱まなぶは正社員四三名、パートさん一八名の中小企業ですが、八木社長のクリエイティブ・ペアの役割を、中川英哉事業本部長が果たしています。管理力を担う中川事業本部長の活躍で、現場がビジョンやミッションを共有する素晴らしい組織になっているのです。

 八木社長は、ビジョン・ミッションを明確に持っています。二〇二二(令和4)年の文科省の調査では、小中学生の約八・八%に発達障害の可能性があるそうです。少子化対策だけではなく、一二(平成24)年四月に改正された障害者自立支援法を、実践し啓蒙するために八木社長は現在、放課後等デイサービスを柱に事業を行っています。

 全国で放課後等デイサービスを利用している児童は二六万八〇〇〇名ですが、支援事業所数が不足しているようです。八木社長は、最初は専業主婦からパートさんとして勤務し、紆余曲折の中で当時の齋藤秀一社長を、幹部として支援し続けました。

 齋藤社長がこうした障害児福祉事業を「システム化」により支援していこうと、㈱まなぶを設立し「放課後等デイサービス ココトモ」を開設しました。そして、三年後、八木さんに株式を含めて経営権を継承されたのです。八木社長の大きな志の源流は、幼い頃ご両親が里親をしていたという事実にありました。①親に見放された知的障害児、②叫び暴れる重度の障害児、③自閉症で不登校の児童など、周囲からの差別や偏見で仲間外れにされた体験をされていたこともあり、こうした大きな社会課題にチャレンジしようと決意して完全独立したのです。

 最初は、結婚・出産と平凡な人生でしたが、前身のネットアーツの齋藤社長のビジョンに共感して二○○一(同12)年に入社し、幹部として必死に会社に尽くしたのです。新規事業「ココトモファーム」も成功しています。齋藤社長は「八木さんに助けられたお陰だ」と述べています。


本記事は、月刊『理念と経営』2023年11月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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