企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

トップは「わが師の恩」を語れ

今、日本の最大の課題は教育です。『論語』の「君子に三畏有り」の言葉は、「敬」の対象を持たない子どもたちにとってマイナスです。大人になって「恥」の概念をあまり感じなくなります。「畏敬」の対象を持つことが、社長を人物たらしめる成長エンジンなのです。

何によって人に憶えられたいか

 ドラッカー博士の言葉の中で一番好きなのは「何によって人に憶えられたいか」という内容のものです。次のように述べています。われわれが考えなければならない共通の問いかけではないでしょうか。

 「私が一三歳のとき、宗教の先生が『何によって人に憶えられたいかね』と聞いた。誰も答えられなかった。すると、『答えられると思って聞いたわけではない。でも五〇になっても答えられなければ、人生を無駄に過ごしたことになるよ』といった」

 ドラッカー博士は恩師の言葉を生涯忘れなかったのです。私にも恩師が多くいます。以前の「世界経営者会議」は、日経新聞・スタンフォード大学・IMDの共同主催でした。現在アメリカ担当はハーバード大学になっていますが、それまではスタンフォード大学のダニエル・オキモト名誉教授が担当でした。学歴のない私をスタンフォード大学の客員研究員として引き上げ、日米経営比較などの研究をする機会を与えてくださった恩師です。

 その世界経営者会議で、あるときカルロス・ゴーン氏が講演され、中学時代に影響を受けた神父さんの話をされました。寛容と愛と正義に触れた内容を記憶しています。当時、日産自動車の改革に成功し、東京・箱崎にあるロイヤルパークホテルでの記者会見で発表された「CFT(クロス・ファンクショナル・チーム)」などの再建計画を、私も是として『増益経営のすすめ』に詳細を書きました。

 講演を聞いてさらに感銘を受けただけに、二〇一八年の不正会計と逃亡事件には「社長とは一体何か」について考えさせられました。ドラッカー博士は一三歳のときの恩師の話を忠実に思索しながら生きてきました。恩師の教えがドラッカー博士の根底にあり、亡くなられた今でも多くの人に影響を与えています。

 一方、カルロス・ゴーン氏の一連の事件を比較したとき、世界経営者会議での発言や講演内容と、逃亡事件には大きな落差があります。ゴーン氏が中学時代に学んだ神父さんの教えは何だったのか。結局強欲資本主義の馬脚が現れ、「恥知らず」のように感じます。

とても印象に残った「産経抄」の文章

 五月二四日付の「産経抄」(産経新聞コラム)は、私たちが忘れていた教師・先生、わが師の恩というものを思い出させる、とても深い内容でした。

 「小学生の頃、学校の先生が自宅で開いた塾に通っていた。当時教員の給料が安く、それだけでは生活が苦しかった事情もあったようだ。当然、就職先として人気がなく〝でもしか先生〟という言葉も生まれた。他にやりたい仕事もないから『先生でもやろう』、あるいは特別な能力がないから『先生しかなれない』というのだ」

 この文章に関して私の体験からいえば、小学校・中学校の先生は、高い志を持って子どもの行く末を案じ、厳しくかつ優しく、生きる上においての基礎を植えつける尊い職業であったと思います。

 慈愛に満ちた厳しさの中で学びました。そして、家庭環境を察知していた恩師から、さりげない励ましの言葉を何度もいただきました。わが師の恩がなければ、人生も大きく変わっていたと思います。

 苦しいとき、今でもわが師の「教え」が大きな支えになっています。何気なくお話しされたのでしょうが、教壇に立つ恩師の言葉は、アメリカ心理学学会会長を務めた故アルバート・バンデューラ先生の「言語的説得」だと思います。困難に出遭うたび、鬼籍の恩師が耳元で「やればできる、やってごらん」と今も囁くのです。踏ん張ってこられたのは、恩師の身近な言葉があったからです。

 小学校の恩師である武尾嘉明先生はよく宿直をし、安月給をその手当で補いました。私たちは事情を知らず宿直室におしかけて出費させていました。人生や生きる意味を植えつけていただいたように思います。

本記事は、月刊『理念と経営』2023年10月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

成功事例集の事例が豊富に掲載
詳しく読みたい方はこちら

詳細・購読はこちら

SNSでシェアする

無料メールマガジン

メールアドレスを登録していただくと、
定期的にメルマガ『理念と経営News』を配信いたします。

お問い合わせ

購読に関するお問い合わせなど、
お気軽にご連絡ください。