企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

困難という泥水を喜んで飲もう

社長力とは、困難な物事に対して意味を見いだす力のことです。社長は、意志力の強い超人ではありません。一輪の花にも感動する繊細さと、やり抜く力が求められます。可能思考能力の高い社長は「発展的思考の展開力」を活用して難局を乗り越えます。

どんなときでも 諦めない底力

 可能思考能力(やり抜く力)は誰にとっても重要です。経営幹部でも、働く人でも、母親や父親にとっても同じです。とくに社長にとって欠かせない重要なものです。自らが決めたことを諦めずに成し遂げる力と同時に、どうやり抜くかという発展的思考の展開力が求められます。

 この能力は成果を創り出すだけではなく、第一に人間としての基礎力といってもいいものです。誰の根底にも潜在している力であり、知識やスキル、ノウハウなど、自らの資質を顕在化させる力の基礎なのです。どんなときでも諦めない底力を活用しない手はありません。

 数年前に『やり抜く力 GRIT』という本がヒットしました。ペンシルベニア大学心理学教授、アンジェラ・ダックワース氏の著書です。やり抜く力は、最近の日本人が忘れているもので、あらゆるジャンルの人が取り戻さなければなりません。やり抜く力は単なる根性論ではなく、誰の根底にも存在するものです。壁にぶつかったとき、発展的な思考の展開力を発揮する原動力です。同書の翻訳者、神崎朗子さんは次のように述べています。

 「『やり抜く力』は自分の選んだ道で成功するためだけでなく、人生という長いマラソンを走り続けるために、すべての人にとって重要だと説いている。山あり谷ありの人生を、幸福感を失わずに生きていくには、目の前の困難や挫折を乗り越えるだけでなく、自分なりの大きな目標と、興味と、希望が必要だ」

 医療社会学者であるアーロン・アントノフスキー博士も、諦めかけて投げ出したいときに、ダックワース教授の言われるように、「首尾一貫した考え方や気持ちの持ち方が重要だ」と提唱しています。

 社長力とは日々の仕事やさまざまな対人関係をうまく対処する能力です。自分にとって難しいと感じたときこそ、物事を肯定的に解釈する「可能思考能力」が「やり抜く力」を支えるのです。

 困難に対して臨むには、「問題は何か」を明確に把握する力が必要です。そのために、常日頃から自らをトレーニングしておかなければなりません。つまり、「事実を直視する力」を養うことです。

セコムの飯田亮氏が 語ったエピソード

 セコム創業者の飯田亮氏が、一月七日に八九歳でご逝去されました。小誌の巻頭対談(2007年1月号)にご登場いただいたお礼にご挨拶に伺った際、渋谷区神宮前の本社の二一階にご案内くださり、神宮外苑の見える都内を一望しながら、創業時のエピソードを語っていただきました。そのことを思いだしながら、「私の履歴書」(日本経済新聞・掲載時期2001年6月、全29回)を読み直しました。

 「私は、随分と痛い目に遭っている。特に創業から四年ほどたち、急成長の反動が出た時期が厳しかった。警備先で社員が盗みを働くという、最悪の事態が相次いだのもこのころだった。契約先企業をおわびして回り、『二度とこんな不祥事は起こしません』と誓うと、その数日後に『ガードマンがまた泥棒』と新聞記事に出る。当時、三十歳代前半だったが、『わが社もここまでか』との思いが脳裏をかすめた。精も根も尽き果てそうだったが、励ますつもりだった社員たちに『自分たちは大丈夫だ。飯田代表こそ、頑張ってくれ』と逆に激励され、窮地を乗り切る力がわいてきた。事件を教訓とし、研修に一段と力を入れるようになったことが、後の成長の基盤にもなっている。過誤や困難を恐れていては、人も企業も成長しない。

 当社では『困難という泥水を喜んで飲もう』が合言葉だ。泥水をたくさん飲んで腹をこわし、耐久力をつけないと強くなれない」(2001年6月1日付、日本経済新聞より)

 日本の一時代を担った偉大な経営者がまたお一人、鬼籍に入られました。心よりご冥福を祈念します。

本記事は、月刊『理念と経営』2023年5月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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