企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

順境にあっても挑み続ける男

大谷翔平選手の一〇四ぶりの快挙は、日本時間八月一〇日の敵地でのアスレチック戦で、六回無失点五奪三振と躍動し、自身メジャー初の一〇っ勝目で成し遂げられました。単に祝うだけでなく、この若者からわれわれ自身が学びましょう。

「偉業王手」から長かった時間

 今年七月一五日の『産経新聞』のスポーツ欄には「大谷九勝一〇四年ぶり偉業王手」という見出しが躍り、朝からわれわれの心に希望を与えてくれていました。四試合連続二椒となる一二奪三振という活躍で、自己最多に並ぶ九勝目を挙げたのです。
 すでに二桁の本塁打を放っていますから、残り一勝すると、一九一八年にベーブ・ルースが打ち立てた「二桁勝利、二桁本塁打」の記録に並びます。テレビに釘付けになって待ちわびた人も多かったのではないでしょうか。
 しかし、七月二四日の『日刊スポーツ』は、「魔の七回大谷」という見出しで報道しており、一つの事を成し遂げるには相当の自己修養が求められることを慮りました。"偉業王手"報道から長かっただけに、大谷選手の記録に心から拍手を送ります。
 スポーツだけでなくわれわれ経営者も、大谷選手の日々の努力に学ばなければなりません。経営革新が叫ばれていますが、激変の今、一人ひとりが「マインド・イノベーション」に挑むべきです。挑むべき「何らかの志」を持つのは、社長力の上位の概念です。
 日本の"失われた三〇年"は、日本の政策の遅れもありますが、われわれの意識や考え方や心の持ち方にも要因があります。果たして真剣に経営を考え抜いてきたのか、万策尽きたとあきらめてはいなかったか―。
 人はどのような試練にも耐えられます。しかし、志や夢や希望があってこそ日本再生は成るのです。日本国家そのもののイノベーションが最大の課題です。一部の政治家も一部の宗教家も、報道を見る限り「いい加減にしてほしい」と思います。
 社会教育家である後藤静香先生は、著書でこう述べています。
 「実際は順境が、逆境以上に人をあやまらせる性質をもって居ますので、順境の為失敗者となるものがあります。財産があるために之を頼って働こうともせず、頭がいいことを誇りとしてろくろく勉強せず、その結果、順境に居ながら行き詰まることになる」
 企業を取り巻く環境は、①日本経済は失われた三〇年というより四〇年説、②アメリカの金利引き上げで円安が進む為替市場、③コロナ禍に加えて当分続く世界的なインフレ、④ウクライナとロシアの戦闘状態、⑤中国の台湾有事―ーと厳しさを増しています。しかし、ここであきらめてはいけません。

松下幸之助翁の発言に衝撃を受けた稲盛氏

 八月二四日に亡くなった稲盛和夫氏は、経済界の代表的な存在であっただけに、「巨星墜つ」の感を強く持ちます。稲盛氏には、松下幸之助翁との次のようなエピソードがあります。
「松下幸之助と稲盛和夫は一九七九年に対談をしたことがある。稲盛はこの対談で、松下が『ダム式経営』について話をした講演を聴きに行ったと、述べている。稲盛によると、この講演後の質疑応答で、中小企業のある経営者が、成功者の松下とは違いダムをつくる余裕などない、どうしたらよいのか教えてほしい、という趣旨の質問をした。松下はひとこと、『そらやっぱし、ダム式経営をやろうと思わんといかんでしょうな」と回答したという。具体性のない回答に周囲の中小企業経営者はがっかりしたようだたが、稲盛は逆に衝撃を受けた」(『誠叢松下幸之助』第14号2010年4月発行、31ページ川上恒雄「松下幸之助と稲盛和夫――その『哲学』の比較」より)
 お二人のように、考え方を日々新たにし、念いを強く持つべきです。

本記事は、月刊『理念と経営』2022年11月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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