企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

「ほころび」を次の世代に遺してはいけない

やればできるという気概を持って、可能性に挑んだ人だけが勝利を手にしています。「可能思考能力」は、こういう時代にこそ不可欠な能力であり、実践された最高のモデル(お手本)を仰ぎ見ることで智恵が湧いてきます。可能性に挑みませんか?

肯定的に解釈する能力が求められている

 「可能思考能力」とはビジョンや目的や目標を持ち、それを実現する力のことで、社長力の根幹をなします。
 大阪府箕面市にある明治の森・箕面国定公園内にある時習堂には、明治期以降の日本国家を支えた経営者のうち一六名の偉人を顕彰しています。多くの経済人を輩出し、『学問のすゝめ』の著作で明治期の青年たちに影響を与えた福沢諭吉翁の書「独立自尊是修身」の碑や「泥中の君子花たれ」の掛け軸には背筋が伸びます。
 『論語と算盤』を著し、インフラ事業やいくつもの企業の創設に関わり、公益のために生涯を尽くした渋沢栄一翁は、日本を代表する経済人として、われわれの最高のモデルです。「権利のあるところには必ず義務が伴う」という言葉も、自由と気ままをはき違えた現代人への警告にほかなりません。
 トヨタグループの社祖である豊田佐吉翁と喜一郎氏の親子は、壮絶な闘いをされた産業人です。佐吉翁は自らの人生を「予が今日迄の生涯は、随分波乱曲折ありて悪戦苦闘。多くは失敗の歴史なりとす」
と回顧しています。
 静岡県の湖西市にある佐吉翁の生家には、「百忍千鍛事遂全」の文字が認められた掛け軸があります。「百の苦難を耐え忍び、千の訓練で鍛えれば、目標を達成することができる」という意味です。また、喜一郎氏は国内自動車産業を自力で立ち上げ、自動車生産によって多くの産業と雇用を生み出す志を抱き、筆舌に尽くしがたい困難を乗り越え、世界のトップになりました。「わしはやる。自動車は困難な仕事だ。誰もやらんからこのわしがやる。たとえ倒れたところで、自分の力が足りんのだから、潔く倒れるまでだ」と覚悟し一縷の望みに懸けたのです。
 かつての日本を代表する産業人は、創業時から志が高く、ギリギリの試練にも耐え、どんなときにも可能性を見つめて、人間を主役に考え、やり抜く力を持って実践し尽くしました。すべてを肯定的に解釈して革新に次ぐ革新を続ける力が可能思考能
力です。
 現在の多くの日本企業は、デジタル化の遅れだけでなく、世界的な難題や矛盾に直面し、初志貫徹の精神にほころびを抱えています。今さら言うべきことではありませんが、必ず突破口はあります。このほころびを次世代に遺すのではなく、可能性に挑み決してあきらめなかった起業家精神をモデルとして学ぶ時です。

企業は社会の公器、松下経営哲学に戻れ

 そのなかでも"経営の神様"と呼ばれた松下幸之助翁の言葉の前では、来館される方々がよく立ち止まります。『道をひらく』から抜粋した「道」という短い文章に励まされています。
 「自分には自分に与えられた道がある 広い時もある せまい時もあるのぼりもあればくだりもある思案にあまる時もあろう しかし 心を定め 希望をもって歩むならば 必ず道はひらけてくる 深い喜びも そこから生まれてくる」(松下幸之助著『道をひらく』PHP研究所より抜粋)
 「道」という言葉は、われわれの両親や学校の先生がよく使いました。人の道にはずれるようなことがないように―ーと。現在、一橋大学ビジネススクールの名和高司先生が提唱する「パーパス経営」が話題になっていますが、日本の代表的な企業史には、その実践の足跡が明確に遺されています。今こそ「企業は社会の公器」という松下経営哲学に戻るべきです。

本記事は、月刊『理念と経営』2022年9月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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