企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

世界の問題を先取りしたビジョン

すべての成功は「このままじゃイヤだ」という気持ちから始まります。事を成し遂げる人たちは現状に甘えず、理想に向かって挑み続けます。志を忘れたとき、人も企業も国も衰退していくのです。

世の中に廃棄物は存在しない

 衰退は、「安住した気持ち」を持った瞬間から始まります。夢を持つとは、目標を持つとは、社長方針を立てるとは、「このままじゃイヤだ」という気持ちが根底にあってこそ生じてきます。それは単なる不満ではなく向上心の証しです。
 株式会社インテックスホールディングス(以下、インテックス)の金山昇司社長は、岡山で観光農園の事業を営み、一〇年がかりの壮大な街おこしを構想しています。当初は高校卒業後、父親の「古鉄商」を手伝い、そこから解体事業や産業廃棄物の事業に発展させました。しかし、会社が大きくなるに従って、「廃棄物の処理問題」という壁が立ちはだかったのです。
 インテックスは経営ビジョンに「ゼロ・エミッションの実現」を掲げています。ゼロ・エミッションとは、リサイクルを徹底し、廃棄物をゼロにしようとする考え方です。同社のホームページには「この世の中に廃棄物は存在しない」という念いが綴られています。廃棄物は人間がつくっている物であり、最初からこの世に存在したわけではない、という強い問題意識が、観光農園の新事業に発展させているのです。
 昨年、英国グラスゴーで、国連気候変動枠組条約第二六回締約国会議(COP26)が開かれました。気候変動の悪影響を回避するのに必要な水準に至るためには、二〇三〇年までの一〇年間の取り組みが重要という結論(決定的な10年間)で、多様な目標が設定されました。
 私はCOPやSDG5を云々する資格はありませんが、すでにスイスにあるローマクラブで、今から約五〇年前に警告されたもので、「成長の限界」という研究レポートを読むとわかります。ローマクラブは、イタリアの実業家アウレリオ・ペッチェイ氏の提唱で、一九七〇年に正式に発足した地球の未来に関する民間シンクタンクです。ペッチェイ氏の秘書として活躍し、世界的な人脈を持つベルギーのグンター・パウリ氏には、各国の人脈を紹介いただき、八五(昭和60)年に広島で開催された「世界青年サミット」でもお世話になりました。パウリ氏が発案・提唱した「ゼロ・エミッション」のセミナーも開催しました。インテックスのビジョンは、そういった世界の問題を先取りしているのです。

ナンバー2が会社の盛衰を決める

 金山社長には、岡山東商業高校の同級生で最も信頼する友として福井英二さんがいました。「このままじゃイヤだ」と悶々としていた金山社長は、その念いを福井さんに伝え、「自社に来て手伝ってくれ」と頼みます。福井さんは、このとき大手企業に勤めていました。当時はまだ金山社長の個人企業です。社長の志や将来像に共感した親友は、一カ月後には金山社長の部下として仕事をするようになります。社長力とはビジョンを持つ力であり、ビジョンに向かってチャレンジする力です。
 会社の業績は好調でした。しかし、ある支店を任せていた常務夫妻が、三〇〇〇万円を横領し失踪します。金山社長は絶望に近い気持ちに襲われました。
 金山社長は人材育成には多大な投資を必死に行い、部下に対して強い信頼感を持ってきました。部下を信頼する力も社長力です。それだけに「信じていた俺が間違っていたのか!」と自分を責めます。このとき、金山社長をさりげなく励まし支えたのが、専務として活躍していた福井さんです。ほかの幹部にも「全員で会社を守り抜こう」と伝えていきました。
 福井専務の誠実さに励まされ、金山社長は「自分のビジョンに共感して、長年ナンバー2として活躍してくれている親友の期待を裏切れない。必ず立派な会社にする」と決意を新たにしました。

本記事は、月刊『理念と経営』2022年4月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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