企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論
社長力
2021年4月号
日本の生産性の低さは どこに原因があるか

日米のGDP(国内総生産)に占める能力開発費を比較してみると、米国の二・〇八%に対して日本は〇・一%です。資源のない国として、"人間主役"とは名ばかりの国家となり、日本の生産性の低さはここにも原因があるように思います。
志の高い企業の芽を摘むべきではない
政府の成長戦略会議のメンバーであるデービッド・アトキンソン氏は「日本経済の停滞は、中小企業の生産性の悪さに起因する」と述べています。賛成する部分も多くありますが、十把一絡げで、細部にわたった
ものではありません。ゴールドマン・サックスの金融調査室長だったご経験から、平均値による統計的な分析が気になるところです。指摘されることは納得する部分も多く、日本のトップリーダー層が、当然気づか
なければならないことです。
ただ、①大企業の下請けへの圧力の無視、②中小企業だけが悪い、③税制優遇と補助金に甘えている、④大企業は生産性が高い、⑤下請法や独占禁止法の違反事例を無視する、など一つひとつを詳細に分析はしてい
ません。
しかし、人口減少を前提に主張されているので、未来を考えると、アトキンソン氏の主張には学ぶべきことがたくさんあります。日本人でさえ「昭和の人たちが必死で稼いだものを平成時代が食い潰し、未来の若者の夢さえ奪っている」と指摘する人もいます。中小企業も問題意識が希薄になり、生産性を上げて貢献しようという意識も薄らいでいます。それは「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれ、「わが世の春」を謳歌した結果です。
「わが世の春」を謳政治も各省庁も、経済界も、われわれ中小企業も、アトキンソン氏が指摘することを事実として容認すべきで、一からやり直す決意が必要です。
日本のGDPに占める能力開発費の低さ
中小企業は、大企業と比較して実効税率(法人の実質的な所得税負担率)で決して優遇されてはいません。ただ、どれだけ納税をしているかを問われれば、指摘される通りです。二〇一六(平成28)年の日本の企業数
は約三五九万社です。定義されている小企業はそのうちの八四・九%を占めますが、従業員は二二・三%を雇用しているだけです。生産性が低くても食えればいいという小企業はあります。しかし、小なりとも、学んで未来の星となる志の高い企業の芽は摘むべきではないのではないでしょうか。
日本は明治維新以降、資源のない国として「人づくり」を伝統としてきました。国是として富国政策を打ち出し、殖産興業に力点を置いて、多くの青年たちが海外留学をして先進諸国の技術や思想を学び、銀行制度や税制など彰欲に吸収したのです。日米のGDPに占める能力開発投資の割合を比較すると、米国の二・〇八%に対して日本は〇・一%です。"人間主役"とは名ばかりの国家となり、日本の生産性の低さはここに原因があります。
つまり、日本の生産性が年々落ちているのは、「小企業を統合すれば生産性は上がる」という単純なことだけではなく、すべての階層で能力開発投資が格段に低く、賢明な国民が鼻にもかけなかったプレミアムフライ
デーなど、政府が本来の政治課題を曖昧にしていることも原因です。主観ですが、日本で一番生産性が低いのは国会ではないかと思います。与野党はアトキンソン氏の著書などで指摘される前に、日本が抱える問題を真剣に審議し、産業政策を含めて諸政策を明確に打ち出すべきでした。正直、"後の祭り"で、その場しのぎの政策が横得しています。
二〇〇〇(同12)年度、世界のGDPを一〇〇として、日本が占める割合は一四・四%でした。だが、一九(同31)年には六%に急激に衰退しています。中小企業の生産性だけにフォーカスする考えは短絡的です。重要なのは、中小企業の生産性の低さを反省すると同時に、政府に「日本の経済は良い方向に向いている」という"実体なき油断がある"ということです。
本記事は、月刊『理念と経営』2021年4月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。
成功事例集の事例が豊富に掲載
詳しく読みたい方はこちら
無料メールマガジン
メールアドレスを登録していただくと、
定期的にメルマガ『理念と経営News』を配信いたします。