企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

先達がつくり上げた遺産を食いつぶしてはいないか

企業内カスタマイズ研修を行う中、本質からずれていく会議の様子をオブザーバーしていた一人の女性スタッフが「会社は何のために人を採用するのですか?」と一喝しました。この単刀直入の言葉は、とても意味深いものです。

今こそ経営の原点に立ち戻ろう

過日、ある一部上場企業の創業者と話し合いました。共に学んだ先輩で、約40年前からご指導を受けています。その方は日本の現状を嘆き憂いておられました。「平成時代は、昭和の人たちの犠牲と努力によってつくり上げた遺産を食いつぶしている。それだけではない、令和の時代のまだ見ぬ子どもたちの未来も食いつぶそうとしている。君はどう思うか!」
 異論などあるはずもなく、「食いつぶしている」という言葉に、そおういう時代にしてしまった昭和生まれ世代の一人として反省しました。
 これはいろいろな意味を含んでいると思います。「創業者がつくった礎に依存して、二代目、三代目はその遺産を食いつぶしていないか」とも受け取れます。また、「親が必死に朝から晩まで働いてつくり上げた遺産を、まるで自分がつくり上げたような気持ちで、無意識に食いつぶしていないか」とも受け取れるのです。
 ちょうど新型コロナウィルス問題で、依頼していた講演の延期をお願いした際でした。痛烈に心にしみる言葉でした。読者の皆さんの中には、逆に創業者がつくった借金にあえぎながら、それを見事に返済している企業もあるかと思います。平成で成長発展した企業も多くありますが、「礎は誰がつくったか?」をふと立ち止まって考えるのが社長力です。
 決して戦争を美化するわけではありませんが、太平洋戦争で多くの尊い命が犠牲になりました。新型コロナウィルスの感染者を大きく上回る320万人が犠牲になったことをおもいだし、再度、新型コロナの問題で迎えている困難を静かに考えるべきです。「自分は一体なんのために経営しているのか?」「自分は一体なぜ、この事業を行っているのか?」と、自らに厳しく問い、創業の原点に戻る良い機会ではないかと思います。自分の会社だけが苦しいのではありません。阪神・淡路大震災、東日本大震災、リーマン・ショックなど、われわれ日本は度重なる苦難を乗り越えてきたのです。
 私の経営する日創研は、佐治敬三サントリー元会長と、伝記作家の小島直記先生に代表発起人になっていただき、1987(昭和62)年に創業しました。実にさまざまな方々の恩恵で現在の成長がありますが、日々「われわれはその恩恵を忘れて、恩恵の上に乗っかって遺産を食いつぶしていないか?」と、先述の先輩の言葉を省みています。

混乱の時代は、人の出来不出来が露呈する

 小島直記先生のご友人で評論家の伊藤肇先生は、公園の度に乱世に求められるリーダー像として土光敏夫さんを挙げておられました。そして、「すべては人物の出来不出来で決まる」と述べ、人物の「応対辞令」について言及していました。
 応対辞令は朱子とその門人の劉子澄がまとめた『小学』にも出てくる言葉です。伊藤肇先生は、「応対」というのは、「身辺に起こってくるさまざまな問題を素早く処理していくことである」という趣旨の話をよくされていました。応対一つで、おのずから判断基準の有無が問われるのです。
 社長力とは、人物たる人間になる意思の力のことです。順調な時代には部下に任せればいいわけですが、現在のような経済的危機の状況に置かれると、「人物の出来不出来」が顕在化します。素早く状況を判断して問題の本質を見極め、そこに経営資源を集中することができるかどうか—。その力を平常時に鍛えていなくては、非常時には“温室の花”のごとくすべてが枯れ果ててしまうのです。
 冒頭で紹介した女性スタッフの一喝は、社長力とは応対力であることを述べたわけです。何のために社長や専務がいるのか?幹部が要るのか?なぜ人を採用するのか?まさに会社の問題を解決し、抱えている自社の課題を解決するために「人(社長・幹部・現場)」がいるのです。
 また、お客様の問題解決や目標達成のために、身辺に起こってくるさまざまな課題を克服することを目的に「会社は人を採用している」のです。緊急時には、平常時と同じような心構えで臨むべきではないのです。大きな視点と、細部の微小な変化を見逃さない両方の視点が必要です。

本記事は、月刊『理念と経営』2020年7月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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