企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

「時」と「場」を最大限活かす

人は誰もが与えられた「場」で、自らの使命にチャレンジする義務を合わせて持っています。逝去された千玄室さんは、精いっぱい与えられた「時」を生き、生涯自分の「場」の責任を果たし、先に逝った戦友を忘れず、重荷を背負って生きてこられました。

自分に与えられた「時」と「場」

 どんな人であれ、「時」と「場」が与えられています。その与えられた「場」と「時」を最大限活かして生きていくことが、それぞれに課せられた責任です。「時」と「場」を最大限活かす力を、管理力といいます。

 社長や経営幹部は与えられたポストを気ままに使うのではなく、千玄室さんがそうだったように、公務として真摯に対処することが必要だと思います。「時」への適切な判断を誤ると、成し遂げられることも成し遂げられなくなります。

 意思決定は「時」に応じて行う必要があり、時を逸しての意思決定は管理力の欠如といわねばなりません。だからこそ、経営幹部は社長に一つでも多くの情報を提供し、判断しやすいように「場(自分の役割)」を活かして、社長をサポートする責任があります。

「戦死者の仲間」をかついで生きる

 千玄室さんは、特攻隊員という「場」を二〇歳で与えられた方です。日本は一九四三(昭和18)年から戦況が芳しくなくなり、次々に戦場の日本兵に過酷な運命を課しました。

 私は平成から令和に元号が変わる中、ペリリュー島を訪れ、その翌年にはサイパン島を訪れて悲惨な傷跡に涙しました。

 上皇后美智子様は、二〇〇五(平成17)年にサイパン島慰霊の際、「いまはとて島果ての崖踏みけりしをみなの足裏思へばかなし」と和歌を詠まれています。
追い込まれた国民の必死の思いを、ご自分のお心の痛みとして、刻まれた歌碑の「をみなの足裏思へばかなし」が胸に刺さりました。

 四五(同20)年三月、徳島海軍航空隊、白菊特別攻撃隊特修終了の日の、千玄室さんのお写真がご著書にあります。一緒に写る多くの若者の表情はさまざまです。
笑顔、口を堅く閉じた顔……、共通するのは、全員が覚悟を決めていることです。千玄室さんは前列中央に悟りのような表情で座られています。

 「西村と私は互いに戦場で命を落とすことを覚悟していましたが、偶然二人とも生き残ることができました。私は出撃しないまま終戦を迎え、西村は出撃したものの不時着により命を取り留めたのです。あのとき徳島で訓練を受けていた仲間たちの中で、生き残った人間はほんの少数でした。

 戦後再会した西村は、亡くなるまで何度も『あの最後のお茶を飲ませてもろうたときのことは忘れられん』と、私に語っていました。私もあの日の茶会のことを思い出しながら七十五年、忸怩たる思いと戦死者の仲間をかついで戦後を生きてまいりました」

 千玄室さんはその念いをもって、お茶を外国に広めようと、茶道具と畳表を小脇に単身渡米し、欧米はもとより、アジア、アフリカ、南米、大洋州諸国など、四十数カ国、回数にして一五〇回以上回られました。



本記事は、月刊『理念と経営』2025年11月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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