企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

市場は「侮りの心」を見抜く

旭酒造の「獺祭」は酒造りに欠かせない杜氏が辞めたことで完成したお酒です。人間の可能性は無限にあるのです。可能性に気づけないのは、今置かれた場所を軽視し、後の矢を頼みて、初めの矢に等閑の心があるからです。

「本末転倒」に発展性はありません

 管理力とは、物事の本質や枝葉末節を見極める力のことです。中国の古典『大学』には、マネジメントの基本中の基本が述べられています。その意味をマネジャーは肝に銘じなければなりません。「マネジメントの父」ともいわれるドラッカー博士と同じ主張が、次のように述べられています。

 「物に本末有り、事に終始有り、先後する所を知れば則ち道に近し」

 新しい発想をすることも大切ですが、長い歴史を経てきた真理に立ち返ることも大事です。私は管理者養成講座でも、『大学』のこの言葉は企業経営全般を司るマネジャーにとって必要不可欠なスキルだと伝えています。

 つまり、「物に本末あり」の「物」には、本質的な側面と枝葉末節の部分の二つの要素が同時に存在します。物をAにするかBにするかを決めるときの判断基準は、本質的な側面(物の根幹)から意思決定すべきであり、方法に関しては、根っこや幹ではなく枝葉を活用するのです。喩えればミカンは根っこがしっかりして幹が頑丈なら、必ず枝葉も生き生きとします。すると時間とともに花が咲き、やがて実がなるのです。つまり、本末の両方が大事なのですが、最優先すべきは「本」であり、逆になると「本末転倒」になり発展性はありません。旭酒造が成功したのは「本」を大切にし「本末転倒」しなかったからです。


先にやるべきことと後に延ばせること

 旭酒造の桜井会長は、売り上げが急激に下がり続ける苦境の中で、次々に手を打ちますが、その最中に肝心な酒造りの杜氏に辞められてしまいます。伝統を守ることにのみ執着する杜氏は、お客様志向の桜井会長の革新的な考え方についていけなかったのです。

 しかし、事には終始があります。うまくいかないことでも「始め」があれば「終わり」がきて必ず解決します。管理力とは、苦しいときほど基本に戻り、先にやるべきことは何か、後に延ばしていいものは何かを考える力です。

 社長力で紹介したように、兼好法師は『徒然草』の中で、「毎度ただ得失なく、この一矢に定むべしと思へ」と述べています。管理力とは、社長と志を同じくし、「この一矢に懸ける熱意を共有する力」なのです。

 桜井会長は「おいしいお酒」造りに一矢を込めていました。だからこそ、杜氏の伝統技術をデータ化し、会社が一丸となり「獺祭」の完成のために革新を繰り返してきたのです。

 経済人を取り上げるテレビ番組『カンブリア宮殿』で、当時社長だった桜井会長が登場していました。その中で、作家でインタビュアーの村上龍氏がこう評しています。「この人がなぜ成功したか。追いつめられていたからです。何かを変えなければ、このままでは(会社が)つぶれると思ったからです」。多くの成功経営者は、共通に追いつめられた体験を持ちます。そして、それだけではなく、真剣に道を求めた結果として成功しているのです。まさに『徒然草』にある「一矢に定めた」からです。

本記事は、月刊『理念と経営』2024年1月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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