企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

「内なる志」を一つにする企業風土をつくれ

物をつくる前に人をつくる―。松下経営哲学はわかりやすい言葉の奥に、自らの体験を通した深い意味を秘めています。折しも現在、デジタル対応のために、人が道具に振り回されています。デジタルは重要です。しかし、「人間主役」の根底を忘れてはいけません。

勝ちへのアプローチは一つではない

 今年六月一日に意味深い記事がありました。『産経新聞』の「【対談】棋聖藤井聡太×『無月の譜』作家 松浦寿輝」です。一部引用しますが、お二人の含蓄のある内容は、現代人に対して「人間の本質」を問うているように思いました。

 松浦寿輝氏が藤井聡太さんに「将棋の世界でも人工知能(AI)を使った研究が進んでいて、中継でもAIによる候補手や評価値が表示されます。最近は(対話型AIの)『チャットGPT』も出現して、社会全体がAIとどう付き合ったらいいのか、という問題に直面していますよね」と尋ねます。

 連日「チャットGPT」がいろいろな関係者に論じられていますが、付和雷同して右往左往するのではなく、質問に答える藤井聡太さんの言葉を参考にするべきだと思います。自分に問い自分に答える必要があります。藤井聡太さんは次のように答えています。

 「生成AIでは自然な文章が出てきて驚きます。ただ、その文章が正解とはかぎらない。将棋でも使い方が問われていると思います。AIが示すのはすごくいい手であることが多いのですが、それが唯一解ではない。AIを信じてしまうと、発想を狭めてしまうことにもなるかなと。勝ちへのアプローチは一つではないですし、不利な局面でどんな勝負手を放つか、という場合はAIとは全く違う考え方になってきます。そんなふうに、対局者が何を考えて指しているのか、を含めて楽しんでもらえたらうれしいです」

 つまり、藤井聡太さんはAIを否定しているのではありません。練習台に使うもよし、道具として活用するもよしとしたうえで、①あくまでも自分らしい発想を持ちなさい、②人間らしい独自性を失ってはうまくいかない、③人間の潜在能力の観点から自分自身の能力を信じて、④自分にしかない天与の才能を発揮しなさい、と言っているように聞こえます。

悩みが人を強くして幸せをつくる

 管理力とは問題発見能力と、それを解決する発揮能力の多寡をいいます。単に自社の課題だけではなく、お客様や社会全体を俯瞰した問題発見能力であり、それらを解決してこそ真の管理力なのです。

 松下幸之助翁に四四年仕えられた木野親之氏は、生前、次のように松下経営哲学のポイントを書いておられます。

 「『悩みあればこそ、道は無限にある』と、幸之助は人間の可能性、偉大さ、素晴らしさに経営の基本を置いています。『組み合せは無限、だから、経営に不可能はない。すべてを蘇生させれば道は無限に生きてくる。そのすべての源は人間だと。経営は、人間が人間のために行う最高のものだ』と言い続けていました。悩みが人を強くし、悩みが希望をつくり、悩みが幸せをつくるのです」(木野親之著『松下幸之助に学ぶ 指導者三六五日』コスモ教育出版)

 経営幹部の皆さんは、「部下の話」を聞く必要があります。「社長の期待」にも応え、「顧客満足の最大化」もしなければなりません。中小企業の経営が危機に瀕すれば、「自らの生活」も脅かされる厳しい立場です。経営幹部の中には、コロナ禍の問題がまだ尾を引き悩みが倍加し苦労している方も多いと思います。

 しかし、松下幸之助翁は①人間の可能性を引き出す、②道は探しようでは無限にある、③経営に不可能はない、④組み合わせを変える(経営革新のチャンス)⑤そういう努力をしてすべてを蘇生させる、それが経営なのだと木野氏に言い続けたのです。

本記事は、月刊『理念と経営』2023年9月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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