企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

もうこれ以上は努力できない、 と胸を張れるか

小学三年生から四年生になる少年は幸福な時間を過ごしていました。しかし、東日本大震災で父と祖父母を亡くします。家も津波で流されました。そして一二年後の三月一一日、WBCの一次ラウンド第三戦で世界のマウンドに立つことになったのです。

可能思考能力は試練をバネにする

 『孟子』は四書五経の中の一冊です。人を鼓舞するという観点から、次のような有名な「章」があります。

 「天の将に大任を是の人に降さんとするや、必ず先ず其の心志を苦しめ、其の筋骨を労せしめ、其の体膚を餓えしめ、其の身を空乏せしめ、其の為さんとする所に払乱せしむ」

 意味は難しくありません。管理力とは企業経営のシンクタンクのポジションであり、自らの実力でつかみ取り、周囲の人々に選ばれてなる存在です。ここでいう天とは、法則・規則・ルールと解釈してもいいと思います。

 つまり、あなたは会社の中で将来の社長候補であり、そういう大任を与えられた地位を目指しているとします。すると、あなたは必ず天に試されるのです。①まずは心を苦しめ、②あなたの志を打ち砕きます。それだけではありません。③肉体にまでその鍛練は及びます。④餓えさせその身を空亡にします。空亡とは何をやってもうまくいかない状態です。⑤行いを払乱させるとは「行いをかき乱す」という意味です。現代なら「虐待ですか?」と、誤解されますが、古典は説明がつきにくい「本質」を伝えるときにこういう例え話を活用します。

 その上で、本来の目的を明確にするのが古典の共通項です。つまり、立派な人物を目指す人への励ましや応援、「頑張れ」「耐えてみせろ」という仁(思いやり)に必ずたどり着きます。

 佐々木朗希投手の生き方、潜在能力の引き出し方、一六五㌔の剛速球、最年少の完全試合、一三人連続奪三振など、彼が世界のマウンドに立つまでのプロセスをたどってみるとわかります。父・祖父母の三人の尊い命を失い、彼の心はぼろぼろになったはずです。しかし、その試練をバネにしたのです。そこに彼の可能思考能力の高さを感じます。管理力とは試練をバネにする力です。この二一歳に学んでいきたいものです。

被災者慰霊の念いを一球に込めさせる

 生まれ育った陸前高田市はまったく見る影もなく、実家まで失い、朗希少年の母の親戚を頼りに大船渡に移り住みます。

 体調の悪化もありました。おそらく津波や人の死を考え挫折しそうになったこともあるでしょう。しかし、朗希少年だけでなく、誰の人生にも栄光に至るまでに、多くの試練を受けているはずです。「天の将に大任を是の人に降さんとするや、必ず先ず其の心志を苦しめ」るのです。

 しかし、可能思考能力の高い朗希少年は、後ろ向きに考えなかった。悲しみを心に秘め、発展的な思考の展開を駆使して、やり抜いてみせた。管理力とはやり抜いてこそ「試練を乗り越えた」といえるのです。

 第三試合に佐々木朗希投手を起用した栗山英樹監督の采配には、正直涙が出ました。東日本大震災の日です。一二年前に失った父や祖父母だけではなく、自分と同じ悲しみや痛みを持つ人、多くの被災者を慰霊する念いを、一球に込めて投げさせる心配りに、日本は一つになったと思います。

 「可能思考」とは発展的に思考を展開させる力です。栗山監督は述べています。「二〇一八年のパ・リーグを制した埼玉西武ライオンズは五三敗しています。セ・リーグ優勝の広島カープは五九敗でした。一シーズンに五〇回以上負けてもリーグチャンピオンになることができる」。これが可能思考です。この窮地にあっても「できる」と確信し、それを前向きに発展させて自分化させる力です。この可能思考でマネジメントするのです。

本記事は、月刊『理念と経営』2023年6月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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