企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

人は「共感」しない限り、自分ごとにしない

三和建設の「つくるひとをつくる」の経営理念がすごいのは、具体的に実行されていることです。「採用」に資金を投入し、入社後の「育成」に尽力。魂が込められています。さらに「かかわり」を大事にし、「成長」させて「自立」させ、働く人を守るという宣言です。

人と人の間には共感性が大切である

 経営理念は、幹部や現場社員さんにリーダーシップ能力、コミュニケーション能力を身につけさせます。そうでなければ「絵に描いた餅」になってしまいます。

 また、理念は社員さんの必要なスキルや知識、情報に敏感な組織をつくります。その結果、社員さんは報告・連絡・相談・確認、PDCAサイクルの実践は当然のこととして、自主的に自分の任務や役割達成に備えます。

 三和建設では「理念の浸透・人財育成」のために、「SANWAアカデミー」を開催しています。モデル(お手本)となる社員さんが講師となり、成長、知識、経験、技術を体系化する仕組みをつくっています。写真を見る限り、多くの質疑応答が活発に繰り広げられているようです。驚くのは、毎月第三土曜日に、一コマ一時間半単位で一日中開催されることです。

 三和建設には森本尚孝社長の「暗黙知」に共感する人たちが多いのです。人を主役にするマネジメントは、①組織の目的を共有する、②目的に対して協働の自発性を発揮する、③そのためにコミュニケーションを取り合う、という三つの組織化条件のいずれが欠けてもうまくいきません。

 経営理念が浸透するには、言葉や文字という形式知を深める暗黙知が必要です。人と人の間には共感性が大切ですが、三和建設には自社の強みや仕事の仕方、価値観について理解度の高い人が経営幹部に多いのです。逆に社風が悪かったり、経営理念が浸透しない組織は、お互いに共感し合うものがありません。

 また、毎日の朝礼では、経営理念に関して自由に発表し合う時間が設けられています。森本社長の講演は非常に論理的で、聞く人たちに共感を与えます。共感性を無視した組織は、悪い意味の企業文化をつくります。数年前、シリコンバレーでグーグルのスタッフと討議したとき、彼らは「仕事は厳しいが、共感している」と言っていました。人は共感しない限り自分ごとにしません。

 森本社長がなぜ、働く人の成長の場や体験の場、理念浸透の場にこだわるのか、それは建設不況で三和建設がダメージを受けたときの体験があるからです。肝心なのは順調な現在でも決して忘れていないことです。誠実な人は初心を忘れません。言いようのない厳しい体験をノウハウづくりの梃子にされています。

過去の体験をすべて自社の強みに変える

 当時、自社を去っていく社員さんの後ろ姿に「こういうことは二度としたくない」と心に誓われたそうです。「社員を辞めさせることはしたくないと痛感しました。そして会社経営のもっとも重要な目的は、売り上げや利益ではなく、雇用を守り、企業を永続させることだと思い知らされました」(2017年9月号『理念と経営』)と述懐しています。

 しかし、多くの企業は大なり小なり景気の好不況の荒波や、自然災害に遭遇するときがあります。重要なのは、その体験を最大限活かしている企業ほど成長・発展していることです。

 「つくるひとをつくる」はわずか九文字です。しかし、九文字に宿る森本社長の想いは、われわれの想像を超えています。経営理念が本物になると、情熱、創造性、差別化、コア・コンピタンス(他社が絶対に真似できない競争優位の源泉)、知恵、アイデアが湧き水の如く出てきます。

 単なる建設を超えて、「顧客の真の要望とメリットを最優先した価値提案にこだわり」続け、日々新たに変化している中でも具体的な価値を全員で生み出しています。①特殊な用途に特化した倉庫(リソウコ)、②食品工場(ファクタス)、③永続する美意識を持ち合わせたマンション( エスアイ200)の三分野にドメインを絞るのも、徹底した差別化です。九文字に徹しているのです。
 


本記事は、月刊『理念と経営』2023年3月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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