企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

与えられた「場(任務)」を最大限活かせ

NHKの大河ドラマ『青天を衝け』を見てください。二七歳で徳川慶喜の命で、弟の昭武に随行してフランスに行った渋沢栄一翁は、明治維新において不可欠となる、日本の富国と商工業の発展の基本を学びます。

先が見えない中で問われた「管理力」

  企業経営は社長一人だけで成り立ちません。徳川幕府の第一五代将軍慶喜公も同じです。巨大な権力があっても、実行段階ではその委譲が明確に機能しなければ、幕府が下級武士に倒されて明治に変わったように、どんな組織も維持できません。管理力とはスムーズな情報の流れや、財務管理、外部環境の変化、明日への人財育成など、自社とお客様の"橋渡し役"なのです。
 渋沢栄一翁は、従兄の尾高惇忠に儒学(約2500年前の孔子の教え)を学び、特に『論語』に重きを置いて、それを富国政策での五〇〇社近い企業運営の基礎に据えました。傍ら幕藩体制のとき、フランスのパリ万博随行でヨーロッパ各国を回り、銀行の仕組みや資本主義などの国造り、富国政策のための社会インフラ(水道・鉄道・ガス管など)の基礎を綿密に学びました。
 今回の新型コロナウイルス問題で、経営幹部は大変な責任を担っていることに気づかれたと思います。①売り上げは上がらない、②お客様は来ない、③費用はかかる――まさに社長にとって地獄のような日々です。仕事柄、経営相談の電話に出ますと、沈黙や声をあげて涙する経営者に触れ、私自身も自分の無力さを強く感じたこの一年間でした。弱音もはけず、いつ収束するかわからない不安、さらに資金手当ての不安は経営者にとって大きな恐怖です。
 そういう中で試されたのが経営幹部の管理力です。①自分がどういうポジションで、②そこにはどのような権限が委譲されているか、③それを執行していく任務は何か、④与えられている責任も思うようにいかず、⑤経営者同様不安の中で闘ってこられたことと思います。

管理力とは提案や諫言ができる力

 管理力には、こういう経営危機のときに、具体的にどういう提案ができるか、という重要な役割があります。渋沢栄一翁が熱心に近代化されたヨーロッパで学んだように、こういうときだからできる「経営革新策」や、同じように挫けそうになる「部下の育成」、時には間違った社長の経営判断や意思決定には、アドバイスだけではなく諫言できる力が必要です。諫めるのも大切な管理力です。
 渋沢栄一翁は一四歳のとき、ペリー提督が黒船で浦賀沖に来航し、大人たちが慌てふためく光景を見て「自分もお国のためになるような人間になりたい」と漠然と決意します。そして、一六歳のときに代官に理衣尽な金を要求されて、武士階級に対して憤りを感じます。特に、『論語』の師である尾高淳忠が「水戸学派」だけに、尊王攘夷に執着
します。いくつかが重なり、天皇を中心とした国造りと、外国との通商反対や外国を排撃して鎖国を行う考えに傾倒します。
 高崎城を乗っ取り、そこから横浜へ出て外国人を打ち倒すという暴挙を企でます。結果的に中止となりますが、渋沢栄一翁でも一時的に血気にはやり失敗もしているのです。
 このときに反対意見を述べたのが淳忠の次弟で、渋沢栄一翁は憤り、刺し違えんばかりの状況だったようです。二三歳のときです。この反対がなければ、老中・井伊直弼を桜田門外で暗殺した水戸浪士と同じ運命が待っていたのです。

本記事は、月刊『理念と経営』2021年5月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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