企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

一律の労働時間削減は「自助の精神」を奪う

「働き方改革」の施行後、早くも再考を促す意見が出ています。現場を知らない人が制度設計したのでしょうが、「よくそんなことが言えたものだ」と言いたくなります。「給料は高く、労働分配率は適正に」が企業経営の大きなポイントなのです。

現場の心の痛みを政府は感じるべきだ

 この原稿は、シリコンバレーへ起業家養成スクール生を案内する中で書いています。毎年一、二回、定点観測で当地を訪れますが、ホームレスの増加が社会問題になっています。年収一三〇〇万円でも、この辺りは貧困層に入ります。
 安倍政権の、非正規社員の方々を正社員化する政策は当然のことですが、企業には、渋沢栄一の言う「論語と算盤」や「道徳経済合一」の考え方は欠かせません。総矛盾する事柄を統合する力が社長力・管理力ですが、『ウェッジ』の「再考 働き方改革」特集に掲載されていた株式会社タニタの谷田千里社長の言葉に強く共感しました。改革の一部そのものが招く国家の衰退に対する提言で、まさに核心を突くものです。ずばり、法制化を進めた人たちの思慮のなさと盲点が、実務経営者の意見として述べられています。谷田社長は次のような疑問を投げかけています。
 「労働時間にキャップをはめ、労働基準法を守らない企業を淘汰するのは必要だ。しかし、われわれは同時にその先の未来についても考えなければならない。今ある仕事は効率化できるが、新しいことを生み出すには必ず時間がかかる。一律の労働時間削減によってイノベーションが生まれず、日本企業の生産性が下がっていくのでは、と不安を感じている」
その不安はすでに現場で起きています。日本の国際競争力が今の政権になってからも下がり続け、一人当たりのGDP(国内総生産)は世界二六位です(2018年時点、IMFより)。政府の繰り出す産業政策は常に後手に回り、もはや“ものづくり大国”の面影はほとんどありません。日本のR&D(研究開発部門)や人への教育投資も減っています。
 今回の訪米で「Pain Point」という言葉が強く心に残っています。「想定顧客の心の痛みにフォーカスする」という意味合いで、今後の日本型ビジネスモデルのポイントとなる言葉です。スタンフォード大学で「デコンストラクション(事業破綻)」の講義をしながら、中小企業が抱えるさまざまなリスクと必死に戦う社長や幹部や現場の心の痛みを、政府は感じるべきだと思いました。

自助努力で人生を設計する

 好調のアメリカ経済にあって、シリコンバレーのホームレス増加は衝撃でした。小中学校の教師は、自分の給料では高い家賃が払えず、キャンピングカーで寝泊まりしているのです。国を担う未来の子どもたちを育てる立場の先生がホームレスとは・・。一体、経済とは何なのか、と深く考えさせられました。世界的有名企業に勤務する社員の中にも、高額な家賃が払えずにホームレスになっている人もいます。
 まさに経済一点張りの落とし穴です。中でもアメリカの医療費制度は、自己責任の名の下で、“人間無視”の印象を受けます。毎月多額の保険金を支払い、その割にあまり報われていないアメリカを見ると、日本の年金制度や医療費などは、かつての政治家の志の高さを感じます。
 われわれも、困ったら国に依存するのではなく、若いうちにもっと働き、自助努力で人生を設計する。そして、ソクラテスが言うように「悪法もまた法なり」ですから、働き方改革関連法は守る-。そういう意味でも、働き方改革を安倍総理は再考すべきです。

本記事は、月刊『理念と経営』2020年1月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

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