企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論

IT化は人間力の総和である

エースカーゴ㈱には決めたことをやり抜く企業文化があります。まさに「人が主役のマネジメント」を行っています。山積みの問題をワンチームとして解決しようとする山中泰宏社長、足立貴裕事業部長ほか全社員の、強い目的意識が勝利を招いています。

「初心忘るべからず」を実践した日々

 山中社長は大学卒業後、エースカーゴに入社しますが、ご両親には猛反対されたそうです。そして、反対したのは中嶋辰也会長のお父さんも同じでした。「親御さんはうちみたいな会社に就職せんように大学行かしてはるのに、身内の方は悲しまはるわ。うちには荷が重いんちゃうか」

 二人きりの入社式で、中嶋会長は「絶対良い会社にせなあかん。ご両親や将来の奥さんや子どもに自慢してもらえるような会社にしよう。身だしなみや挨拶はうるさく言うけれど、絶対いい会社にしよう」と、山中社長に伝えました。経営理念もなかった当時の、中嶋会長からの歓迎の言葉だったようです。

 思わずIBM創立者トーマス・J・ワトソンの「個人の尊重」という考え方とオーバーラップして胸が熱くなりました。ワトソンは厳しい人でしたが、「働く人の子どもたちが父親の職業を聞かれたとき、誇りを持って社名を言えるような会社にしよう。妻たちが夫の勤める会社を微笑みながら言えるようにしたい」と語ったそうです。

 中嶋会長も山中社長も幾度も困難に出遭います。その度に、当初の決意に立ち返り、協働能力を発揮して問題解決してきたのです。山中社長は「私はあのとき、絶対良い会社にしようと思いました。このときの会長の言葉が今でも私の根底にずっとあるんです。しかし、給料は他社より安く、年間休日三〇日からせいぜい四〇日で、休みの日にくつろいでいると会社から電話が入り急遽出勤という状態でした。その上、東京に二日で二運行とか、みんな自腹で高速道路に乗って睡眠時間を取っていました」と振り返っています。

「人生は短い」となぜ思うのか

 山中社長は、当時の厳しい状況の話を楽しそうに思い出として語ってくれましたが、ストア派の哲学者であるセネカは、その著『人生の短さについて』で、過去・現在・未来の中で一番大事なのは「過去の時間」だと述べています。「人生は決して短くはない。短いと思うのは、過去の時間に意義や歓びを見いだせないからである」(筆者意訳)。実に意味深い哲学です。

「会長も休みなしで走り、自分たちもこれだけやっているのだから会社は絶対儲かっていると思っていました。入社式で願った良い会社に着々と近づいていると思っていました。だから、苦しくても辛くても頑張れたのだと思います」

 ところが売り上げは伸びているのに利益は出ておらず、やればやるほど経費がかさみ、社員が疲弊して、事故や車の故障も起きてしまいます。実際、売り上げは右肩上がりでも赤字続きです。中嶋会長は「もう続けられない」と、あるセミナー会社の門を叩きます。

 山中社長は、その後の会社の激変を振り返ります。「ある日会長から電話が入り、『今まですまなかった。これまでのやり方をいったんやめて、教わった通りやるからついてきてほしい』と涙ながらに言うのです」

 そして、話し合うと「お金」という結論に行き着きます。「お金さえあれば休みもとれる。高速にも乗れる。お金さえあれば給料も払える」。そのときに会長にこう言われたのです。「俺もずっとそう思っていた。お金があれば社員に喜んでもらえる。でも、この仕事を始めたときは販売店さんやお届け先のお客様に喜んでもらおうと思った。そのときの気持ちが一番大事や」。この会長の言葉に山中社長も深く気づきます。

 このとき、創業の精神と経営理念の「真心物流」が生まれたのです。三位一体経営への努力の始まりです。


本記事は、月刊『理念と経営』2023年8月号「企業の成功法則 社長力・管理力・現場力 三位一体論」から抜粋したものです。

成功事例集の事例が豊富に掲載
詳しく読みたい方はこちら

詳細・購読はこちら

SNSでシェアする

無料メールマガジン

メールアドレスを登録していただくと、
定期的にメルマガ『理念と経営News』を配信いたします。

お問い合わせ

購読に関するお問い合わせなど、
お気軽にご連絡ください。