第9回「心に残る、ありがとう!」体験談 贈賞式

今回も「心に残る、ありがとう!」体験談へ多数のご応募をいただき、誠にありがとうございました。2023年1月17日、グランドニッコー東京 台場(東京都港区)で行われた新春経営者セミナーの席上にて、公開選考会と贈賞式を開催いたしました。各選考委員の厳正な審査を経て、最優秀賞1編、優秀賞2編が決定いたしました。

大賞発表

    最優秀賞
  • 先生ありがとう

    村上むらかみ 友規ゆき さん

    優秀賞
  • 何気ない毎日にありがとう

    中井なかい いずみ さん

  • 両親へ

    三梨みつなし 秀城しゅうせい さん

    入選者
  • 自分を愛情一杯に育ててくれてありがとう

    井上いのうえ 周士しゅうじ さん

  • 父が私にくれたもの

    小椋おぐら あい さん

  • じいちゃん、ばあちゃん ごめんなさい、ありがとう。

    川井かわい 英治えいじ さん

  • 祖父母から教わった大切なこと

    木下きのした 哲也てつや さん

  • 私を支えている言葉

    田中たなか 大作だいさく さん

  • 感謝の溢れる毎日

    留本とめもと 伊代那いよな さん

  • いつも笑顔の妻にありがとう。

    波多野はたの 浩嗣ひろつぐ さん

最優秀賞

先生ありがとう

村上むらかみ 友規ゆき さん

今から約三〇年前、短大を卒業して入社する企業の研修も終わり、二日後にいよいよ入社式を迎える日に病院を訪れて自分が妊娠していることがわかりました。
翌日に家族と数時間に及ぶ話し合いをし、私の産みたい気持ちを伝えたものの両親から子どもを産むことへの同意が得られず、また数日後に話し合いをする運びに。そんな状況と体調不良で入社式に行ける訳もなく、入社式当日の朝に会社に連絡し入社を辞退させていただきたいことをお伝えすることとなってしまいました。
社長から怒涛のようなお叱りをいただき、「こんな不誠実なことをされたのでは、あなたの学校自体を信用できないので今後あなたの学校からはうちだけでなくこの業界への入社をさせないよう手配します」と……。
私だけの問題ではなくなり、両親の同意も得られずどうしたらよいのか、どうするべきなのか分からず、まずは学校に迷惑をかけてしまうことが大問題と捉え、不安なまま短大の担任に相談をしました。
その時に先生が言ってくれた言葉は、「いいか、会社のことや学校のことは何も気にしなくていいんだよ。会社にとって君はまだただの一つの部品みたいなものであって、確かに必要だけれども代えはまた探せばいい。でもね、お腹の赤ちゃんにとって君は代えのきかない唯一の存在なんだよ。産みたいのであればご両親はきっといつか分かってくれるし、その子の為にがんばればいい」
そう言ってあっさりと就職先の社長の怒りを笑い飛ばしてくれました。
後で聞いたのですが、その後先生は知り合いのつてを辿り、その会社の社長にお詫びをしてくれて会社と学校の問題はなかったことにしてくれていました。
あの時あの言葉がなかったら、私は選択を間違えていたかもしれない。あの時選択を間違えていたら、息子たちに会えなかった。
それからも時々先生は電話をくれました。
それは、その時の話ではなく、自分のダメなところや、今こんなことをしていて幸せなんだよ、なんて他愛もない日常を少し酔いながら話してくれました。
その数年後に先生は肝硬変で他界してしまい、息子たちを会わせることはできなかったけれど、今でもふと遠くの空に思い出します。
二十歳の私にとって重大事件を起こしてしまったと思い悩んだ出来事だったけれど、何が一番大切か、それを大切に思うならどうしたらよいのかをしっかりと教えていただいた気がします。もちろん入社当日に辞退をするような結果になってしまったことを軽んじて考えてはいけないけれど、あの時の選択を心から良かったと思っています。
先生ありがとう。今とても幸せです。

優秀賞

何気ない毎日にありがとう

中井なかい いずみ さん

「いってきます」「いってらっしゃい」最後に家を出る末の娘を見送ってから、いつものように仕事に出かける。
目が覚めてからそこまでに嵐のようなスピードで家事を片付けているので、正直、家のカギをかける瞬間はいつもほっとする。今日もすべてのことが間に合って、いつも通りに出かけられるということだから。
ハンドルを握って、会社に着くまでの一五分足らずの時間。この時間はわたしにとって、ゆっくりと考え事のできる大切な時間。いつもは、今日の仕事のことや、夕ご飯の買い物のことなど日々の雑多なあれこれを考えているけれど、ふと、当たり前に始まった今日に感謝することがある。
自分がこうして、当たり前に働くことができているのも、家族が元気でいてくれるからなのだと。洗濯機を回しながら掃除機をかけて、朝ごはんを用意しながらお弁当を詰めて……毎日繰り返されるこのサイクル。家族はそれぞれ自分が間に合う時間に起きてきて、食べて支度をして、出かけていく。
「いってきます」の声に、「いってらっしゃい」と返しながら、この当たり前の日常は、家族みんなが元気でいてくれるから成り立っているのだと。
そしてまた、一日が終わり、めいめいが家に帰ってくる。これまた慌ただしく夕ご飯を作りながら、「ただいま」「おかえり」。
家族が今日一日を無事に過ごせたことに感謝。時々わたしより早く帰宅した家族が、洗濯物を取り込んでくれることに感謝。
いつもそこにある当たり前の日常を、今日も当たり前に過ごせることに感謝。忙しい毎日のなかで、こんな気持ちにさせてくれる家族に感謝。その家族のために、わたしもがんばらなくちゃ、とマスクのなかでにっこりしながら、今日もゆっくりとハンドルをきる。

両親へ

三梨みつなし 秀城しゅうせい さん

私が産まれて間もない頃、父親が病気で入院となりすぐに保育所に預けられたそうです。そんな記憶は私にはありませんが、記憶にあるのは、父親の単身赴任により、殆ど家には母親と姉の三人だったということ。子どもながらに父親に対し、いつも家にいない、遊んでくれない、その位しか考えていなかったと思います。その為育児は母親のみで大変苦労をしたと思います。私の故郷は国からの指定を受ける豪雪地帯のさらに上の特別豪雪地帯。家の前の除雪など毎朝苦労かけていたと思います。ただその時は親の苦労を知るはずもなく、何となく成長していたのを思い出します。
母親は育児を一人でやっていたこともあって、何とかして育てなければという思いもあってか非常に厳しく育てられ、毎日のように怒られながら勉強させられました。その中私も思春期に入り親への反抗も始まります。最終的に私の取った行動は、高校卒業と同時に実家を出るということでした。実家を出られるのであれば何でもいいとまで思っていましたので、定職につかずフリーターで過ごす日々。最初はそれでいいと思っていましたが、やっぱり自分の人生。いつか幸せに過ごしたいとどこかで思っていました。
そこで初めて就職を決意し行動。最初の仕事はIT関連の営業。そこで私は社会の厳しさを知りました。仕事は楽しかったのですが利益率が悪かった為か、わずか一年半で会社ごと倒産。最後の数カ月の給料が出ていなく、生活に困り借金をしての生活。今思えば色々な助けてくれる所がありますが、二一歳の私には分かるはずもなく、実家を飛び出した為に親も頼る事ができませんでした。またフリーターの生活に戻ってしまいました。居酒屋で昼夜逆転の生活をしていましたが借金が返せる当てもなく、金利が高く少しずつ借金が増えていきました。最終的には体を壊し休養を取らざるを得なくなりました。ついに私は数年ぶりに親へ連絡を取ってみました。殆ど連絡を取ることもなく、ほぼ勘当状態の私でしたので電話を切られると思っていました。その私にかけた最初の父親の言葉は「連絡有難う。心配したと……」。
私は実家に戻る事を決意。借金がある私を何も言わずに受け入れ様々な面で助けられました。その時「親は何歳になっても子どもの親。きちんと地盤を固めず親から離れた子は幸せになる事は難しい。何があっても親は子の親。いつも何処かで子を想っています」と言われたのは忘れる事はできません。
今は結婚し、家内の仕事や実家の関係で実家を離れ東京に出て来ましたが、もう大丈夫。一人ではない、妻と三人の子どもと今の職場と仲間にと私にはよき仲間に恵まれて、今私は人生の中で一番幸せを感じています。しかし、もっともっと幸せになる為に成長し今度は支えられた分、私が周りを支え幸せにしていかなければと思います。そんな私を見捨てず、見守ってくれた父と母に有難う。その愛情を子ども達に引き継ぎます。

選 評

選考委員長

作家

小檜山 博 氏

激動の社会で立ち上がる力

人生における鉄則は、人はけっして一人で生きることはできないという認識である。衣食住はじめ、すべて人さまのおかげという認識である。今回の十作品とも、自分の非を誰かに助けられたことに気づき、立ち上がる力が生まれたことが主題になっていて感動した。
村上友規さんが先生に相談しようと思った思考の選択そのことが秀逸である。中井いずみさんの、普通の毎日を与えてくれる人々への感謝の感性が見事。三梨秀城さんが両親の言葉を受けとめた力量がすばらしい。井上周士さんが、自分が両親の愛情で成長したことを悟る力に感心する。小椋愛さんの父親の優しさが伝わるいい作品。川井英治さんが祖父母の愛情を振り返る姿勢がすばらしい。木下哲也さんの体験は必ず人生を豊かにするはず。田中大作さんが前向きで自律的な経営者になるのは確実。留本伊代那さんの感謝の心はどの職場にも不可欠。波多野浩嗣さんの妻への感謝は生きる原点。
いま社会が激しく動揺するとき、この体験談を続けられる「コスモ教育出版」に敬意を表します。

選考委員

無言館館主・作家

窪島 誠一郎 氏

単なるお礼の言葉ではない

ありがとうとは、人生が成功したときに、ご恩になった相手に述べるお礼の言葉ではない。たとえ結果が失敗に終わったとしても、今まで支えてくれた人たちへの感謝の言葉が、本当のありがとうだと思う。そんな思いで、今回の審査に臨みました。
小椋愛さんの100円のアンパン、 井上周士さんの青果市場物語にも心打たれましたが、断然トップだったのは、出産という重大な決意の背中を押してくれた先生への、村上友規さんの「先生ありがとう」でした。 大激怒した相手の社長さんに、そっと裏で話をつけてくれた先生には、大拍手です。それも、村上さんが勇気を持って真実を打ち明けたからのこと、そう思います。
三梨秀城さんの、借金まみれな自分を迎えてくれたご両親の話には、私自身のことが重なりました。中井いずみさんの何気ない毎日への感謝も心に残りました。今回、審査をやらせていただき、本当に感謝しています。

アイ・ケイ・ケイホールディングス株式会社
代表取締役会長兼社長CEO

金子 和斗志 氏

満場一致の最優秀賞

このたびは、素晴らしい作品が集まりました。入選者の皆様と、応募者の皆様全員に、改めてお礼申し上げます。
いつの日か、弊社の社員に「贈賞式の前に、最優秀賞も優秀賞も決まってるんでしょ」と言われたことがあります。しかし、最優秀賞と優秀賞の計三編は、贈賞式の当日に小檜山先生、窪島先生と三人で話し合って選出しています。本日も、今日この場で選りすぐりの三編を決定いたしました。
今回の選考の場では、三人ともが非常に近い意見を持っていました。批評の切り口は三者三様でしたが、最優秀賞は満場一致で決定いたしました。それだけ秀逸な作品でした。
他九編も、甲乙つけがたい作品ばかりでした。受賞者の皆様、おめでとうございます。